技術士

選択科目 Ⅲ の対策

概要

 選択科目Ⅲの問題構成は、概ね以下のようになっています(技術部門によって傾向が少し異なる場合があります)。

 ・問題文:選択科目の技術部門が抱える日本の現状や問題点などをテーマとして、その概要や答案の方向性が提示
 ・(1):選択科目の技術部門の技術者として、テーマに多面的に異なる観点から課題を抽出
 ・(2):最重要課題とその理由及び解決策
 ・(3):解決策から生じるリスク(懸念事項)とその対策、解決策から得られる波及効果

コンピテンシー必須科目Ⅰ選択科目Ⅱ−1選択科目Ⅱ−2選択科目Ⅲ口頭試験
専門的学識
(基本知識理解)

(基本知識理解)
(基本理解レベル)

(業務知識理解)
(業務理解レベル)

(基本知識理解)
問題解決
(課題抽出)
(方策提起)

(課題抽出)
(方策提起)
評価
(新たなリスク)

(新たなリスク)
技術者倫理
(社会的認識)
マネジメント
(業務遂行手順)
コミュニケーション
(的確表現)

(的確表現)

(的確表現)

(的確表現)
リーダーシップ
(関係者調整)
継続研さん
試験科目別確認項目

対策

(1) 課題の抽出

目安となる記述量

 概ね1ページを目安としましょう。

課題の書き方

 単に課題を列挙するだけでは、説得力に欠けます。なぜそれが課題になるのかを明記しましょう。

 そのためには、
  ①現状はどうなっているのか
  ②問題点は何か
  ③だから課題をどうするか
 といった流れで考えると良いでしょう。

 具体例で見てみましょう。添削前は単に課題を列挙、添削後は現状、問題点、課題の順で記載しています。

事例:地方都市への電気自動車の普及・拡大に伴う課題

添削前
(1)充電スタンドの普及
 電気自動車の普及には、充電スタンドの普及が課題である。

添削後
(1)充電スタンドの普及(観点:利便性)
 現状:2021年現在、都内では1km2あたり1基以上の充電スタンドが整備されている。一方、北海道や東北などの地域では、都内の100分の1以下の設置数である。
 問題点:充電1回あたりの走行距離は年々増加している。しかし、充電スタンドの少なさは、充電切れへの不安心理からEV普及の足かせとなる。
 課題:したがって、EVの普及拡大には、充電スタンドの設置数増加が必要不可欠である。

多面的な観点の例

 多面的な観点からの課題の抽出は、複数の異なる側面から問題点を分析し、課題を抽出することになります。

 このとき、多面的な観点として、「ヒト」、「モノ」、「カネ」、「情報」、「ルール」、「基準」、「時間」、「場所」、「環境」、「安全」などに着目して記載すると良いでしょう。

 ヒト:技術者(従業員)及び会社(組織)の知識、経験、ノウハウ、男女比、外国人労働者、利便性向上など

 モノ:設備の状況(新しい設備か古い設備か)、老朽取替の可否、稼働率、故障率など

 カネ:費用の発生、ランニングコスト、イニシャルコスト、既存と比べてコスト増かコスト減かなど

 情報:関係法令の改定(及び共有)、情報共有の方法、セキュリティ、テレワーク・在宅勤務など

 ルール:既存のルールでの対応可否、関連法令遵守のコンプライアンスなど

 基準:基準の見直しの可否、基準の適用など

 時間:納期(特に海外情勢による影響)、ボトルネックとなる工程など

 場所:景観に考慮すべき場所、塩害を受けやすい場所、自然災害(大雪、雷、台風、地震など)の発生しやすい場所など

 環境:自然環境に与える影響、環境法令の遵守、職場の環境整備、騒音、振動など

 安全:高所作業・危険作業の有無、技術者(従業員)の健康管理など

課題と問題点の違い

 多くの受験生は、「問題点」と「課題」を同じ概念で考えています。しかし、技術士試験では、「問題点」と「課題」は異なる概念として記述します。

・問題点
 あるべき姿(目標・水準)と現状とのギャップ(差異)
・課題(課題設定)
 問題点を解決するために為すべきことを設定

 修習技術者のための修習ガイドブック-技術士をめざして-第3版 p11より(一部改変)

 したがって、問題点はネガティブな表現課題はポジティブな表現で記載することになります。
 また、問題点の言い換えを課題で記載するのは、おすすめしません。具体例は、以下のNG事例集(事例3)を参照ください。

技術者の扱う問題の種類

 「修習技術者のための修習ガイドブック」によれば、技術者の扱う問題の種類は、以下のように整理されています。
 一部は、倫理、社会の持続可能性、関係者との調整方策の内容も混ざっていますが、参考になるかと思います。

問題の種類説明具体例
技術上の問題ある一定の課題に対して、技術的な解決を求められる問題・製造上の問題
・製品技術開発における問題
・品質に関する問題
工程上の問題プロジェクトマネジメントに関する問題・顧客に約束した納期に間に合わない
組織の問題組織間のコミュニケーション、業務上の連携に関する問題・組織の連携がうまくいかない
・情報共有ができていない
リスクマネジメントの問題隠れたリスクが存在し、顕在化したときは組織や個人に大きなハザード(経済的損失、人命の被害)をもたらす・内部告発から偽装が発覚した
・災害時に部品供給が停止する
倫理上の問題法令に違反したことが行われている、または、公衆の安全に重大な影響のある設計、施工、生産方法が行われているなど・耐震強度を偽装した構造計算を行い建築確認許可を得た
環境の問題地球の環境、地球の環境の問題など、エンジニアの立場で関わるもの・環境に配慮しない設計が行われていた
・住民との合意形成がなされていない
予算上の問題プロジェクトの予算には限りがある・予算計画の問題
・資金獲得の問題
技術者の扱う問題
修習技術者のための修習ガイドブック-技術士をめざして-第3版 p12より

よくあるNG事例集

事例1:必要性の連呼
 〇〇の実現のためには、△△が必要である。また、〇〇のため、△△も必要である。更に、〇〇を行う必要もある。したがって、☆☆が課題である。

必要性を連呼することで、焦点がボケてきます(本当に必要なものがどれか分かりません)。「必要性」を記載する場合は、1つの課題に1つまでとしましょう。

事例2:現状・問題点・課題の不一致
 現状:少子高齢化により、生産年齢人口が〇年前に比べて△%減少している。
 問題点:円安や物価高のため製品開発にコストがかかる
 課題:省エネ技術導入によるコスト低減

現状は少子高齢化による生産年齢人口の話題を記載しているにも関わらず、問題点では円安等によるコスト上昇となっています。
現状・問題点・課題は一致させるよう記述しましょう。

事例3:問題点と課題
 問題点:〇〇のコスト上昇が問題となる。
 課題:したがって、〇〇のコスト低減が課題である。

コスト上昇はネガティブ表現、コスト低減はポジティブ表現になっています。しかし、課題は問題点の言い換えに過ぎません。
問題点、あるいは、課題の表現を変更するようにしましょう。

(2)−1 最重要課題とその理由

目安となる記述量

 概ね3行程度を目安としましょう。

最重要課題の抽出方法

 (2)では、まず「(1)で抽出した課題の中から最も重要と考える課題」を記述します。

 最も重要と考える課題は、それを達成するための手段(解決策)が「科学技術(技術部門)」を活用できるものにしましょう。例えば、
 ・予算の確保
 ・人材のスキル向上
 ・少子高齢化の食い止め
などは、解決策に科学技術を用いることは困難です。

 また、最も重要と考える課題を選定したら、その理由も記載しましょう。上記のように「解決策が科学技術を活用できるから」ではNGです。他の課題に比べての重要性をアッピールしましょう。

(補足)
 近年では、最も重要と考える課題を選定したらその理由も記載せよ、と問題文で指示があります。しかし令和元年〜令和2年ぐらいの過去問では、理由の説明は問題文で指示がありません。
 近年の試験問題へ対応するため、問題文に指示がなくても、「最も重要と考える課題の理由」は記述しましょう。

(2)−2 解決策

目安となる記述量

 概ね1ページ(+α)程度を目安としましょう。

解決策の書き方

 大きく分けて2パターンあります。

<パターン1>
 ①解決策の発想にいたった着眼点
 ②解決策の具体的な方法・手法
 ③解決策が達成できた場合の成果

 具体例を見てみましょう。

<パターン1の具体例>
添削前
(1)IoT機器の導入
  カメラやセンサーを活用して、IoT機器の導入を図る。

添削後
(1)IoT機器の導入
 現在は、人力作業が大半である。そこで、人力作業の自動化に着目し、IoT機器の導入を行う。
 具体的には、〜〜〜(具体的な解決方法)
 その結果、人力作業のうち30%が自動化され、生産性向上へとつながる。

<パターン2>
 ①解決策の方針・方向性
 ②解決策の具体的な方法・手法
 ③解決策を達成できた場合の成果

 こちらも具体例を見てみましょう。

<パターン2の具体例>
添削前
(1)IoT機器の導入
  カメラやセンサーを活用して、IoT機器の導入を図る。

添削後
(1)IoT機器の導入
 〇〇の課題を達成するため、カメラやセンサーを活用して、IoT機器の導入を図る。
 具体的には、〜〜〜(具体的な解決方法)
 その結果、〇〇の課題が達成できる。

着眼点や方針の書き方

 着眼点や方針は、次に述べる解決策の前段として記載します。どのような技術を用いるのか、なぜその技術が有効なのかを意識しながら、1〜2行程度で記載しましょう。
 ・〇〇に着目し、☆☆技術を導入する。
 ・〇〇の課題を達成するため、☆☆技術の導入を図る。
 ・〇〇のため、☆☆技術を導入すれば△△が得られると考える。
 ・一般的には〇〇を導入するが、本件は△△のため、☆☆を導入する。

解決策の具体的な方法の書き方

 ここでは、一般的な技術の説明に終始してはいけません。
 世の中にある技術を、問題文(あるいは設定した課題)のテーマに合わせてどのように活用するのか、具体的に記載します。
 着眼点や方針に記載した技術を、
  ・どのように用いるのか
  ・導入するに当たり工夫することは何か
などを意識して記載してみてください。

 また、ここから解決策ですよ、と示すために、文頭に「具体的には、」などの表現を使うと、読みやすい文章になります。ただし、「例えば、」などの表現は、他人事に見えてしまいますので避けましょう。
 解決策は、テーマに合わせて様々に記載できます。そのため、添削などを通じて自分のものにしていきましょう。

 さらに、解決策の具体的手法を記載するのに、インターネットで調べた技術や世の中話題になっている技術を書く方が多いと思います。
 間違った方法ではありませんが、まずはご自身の専門技術が応用できないか考えてみてください。
 ご自身の専門技術は、誰にも負けないはずです。したがって、具体性・技術力・成果などに説得力が増すはずです。

(補足)
 理想論と現実をしっかり見極めましょう。
 技術の理想を語りだすとキリがありません。あれもこれも技術を導入することができれば、最初から出来ています。
 同じ技術を導入するにしても、場面(問題文のテーマ)や予算、規模などで変わってくるはずです。
 ・提案しようとしている技術が、なぜ現状導入されていないのか。
 ・導入するには、どのような工夫が必要なのか(工夫が必要なければ、技術士でなくても提案できます)
 ・過剰な技術になっていないか(例:センサーを1個導入すれば解決できるのに、100個導入しよう!など)。
 ・あなただからこその持ち味はなにか(これまでの知見、経験、技術力を発揮しましょう)
 ・最新技術の動向を反映させましょう
  →よく社会の持続可能性で、従業員に最新の技術を知得させる、と記載している方がいます。それ自体はOKですが、あなた自身、最新の技術を知得していますか?

解決策に役立つ技術

 電気電子部門がメインですが、幅広い解決策に使えそうな技術例を紹介します。
 ※内容は随時見直しを行います。
 ・人工知能(AI)
 ・スマートシティ化、スマート農業などのような「スマート〇〇」
 ・自社敷地内(工場内)への再エネ導入
 ・各種IoTデバイスの導入
 ・クラウド化

成果の書き方

 最後に、解決策を達成できた場合の成果を記述しましょう。設問に「成果(効果)を述べよ」と記載がなくても、成果は述べるようにします。
 成果も本題ではありませんので、1〜2行程度で記載します。
 ただし、解決策は課題を達成するために行うものです。そのため、課題と無関係な成果では意味がありません。課題、解決策、成果が矛盾の無いよう記載しましょう。
 なお、部門によっては、(3)で成果を記述する場合があります。その場合は、(3)で記述するようにしましょう。

オズボーンのチェックリスト

 解決策の観点に困ったら、オズボーンのチェックリストを参考にアイディアを考えてみてください。

ポイント意味応用
転用他の使い道を考える多分野に適用してみる
応用似たものを考える同じ手法を適用できないか
変更一部を変えてみる色・音・大きさ・用途の変更
拡大大きく、長くしてみる時間、態度、強度、価値、数量
縮小小さく、短くしてみる時間、態度、強度、価値、数量
代用代わりになるものがあるか人、物、材料、製法、場所
再配列並べ変えをしてみる場所を変える、順序変更
逆転逆にしてみる反対にする、役割を変える
結合組合せてみる合体、ブレンド
修習技術者のための修習ガイドブック-技術士をめざして-第3版 p13より

(3) リスク

目安となる記述量

 リスクの説明、対策で概ね0.8ページを目安にしましょう。
 必須科目と違い、リスクは2つ程度記載すると良いです。

概要

 「リスク」とは、現在は顕在化していないが仮に顕在化すると、解決策が無意味になる重大な悪影響で、かつ、不確実な事象の事を言います。

 多くの受験生は、技術上のデメリットなどを記載します。しかし、確実に発生する事象や技術上のデメリットは、事前に検討するべき内容です。したがって、それはリスクではなく「問題点」に該当します。

 リスクは、第三者の影響によるものをメインに考えましょう。

 また、リスク = 被害規模 × 発生確率で表現することも出来ます。そのため、リスク対策では、
  ①被害規模を低減させる対策
  ②発生確率を低減させる対策
を記載すれば良いでしょう。

リスクとデメリットの判断基準

<リスク>
 ・第三者が原因となり引き起こる事象
  ・・・サイバー攻撃、自然災害、通信障害など
 ・通常の想定では発生しない事象(想定外の原因により発生する)
  ・・・初めての使用・不慣れな人の使用・方法変更などにより生じるミスなど
 ・自分自身でコントロールできない事象
  ・・・通信障害、海外情勢の影響など
 ・発生頻度は少ないが、発生すると悪影響が大きい事象
  ・・・特定条件下での不良品の大量発生、人員変更に伴う労災・公衆災害の一時的増加など
  ※発生頻度は少ない、かつ、発生しても悪影響が小さい事象は、リスクとしては不向きです。

<デメリット>
 ・技術上の短所
 ・通常の想定で発生する不具合
 ・自分自身でコントロール出来る不具合
 ・発生頻度が多く、最初から考慮しておきべき事象

解決策との関連

 一般的なリスクを記載するのではなく、「解決策」を実行することで「新たに」生じるリスクを記載しましょう。

 例えば、多くの受験生が「サイバー攻撃」をリスクとします。しかし、サイバー攻撃は解決策に関係なく、常日頃生じるリスクではありませんか?
そのような記載であれば、題意を満たしていません。

 もし、「サイバー攻撃」をリスクとするのであれば、
  解決策:IoT機器の導入
  リスク:これまで以上にネットワークに繋がる機器が増えるため、サイバー攻撃のリスクが増大する。
などのように、解決策に関連して記載できるようにしましょう。

例1(サイバー攻撃)
 解決策は、これまで以上にオンライン接続される。そのため、サイバー攻撃のリスクが大幅に増加する。具体的には、〇〇などの攻撃が想定される。
例2(通信障害)
 解決策は、既存のキャリア回線を用いる。そのため、通信障害が発生すると、〇〇が達成できない。実際、〇〇年や〇〇年には大規模通信障害が発生した。

リスクの種類

 技術士試験で記載できそうなリスク例を示します。
ただし、サイバー攻撃は、本当に多くの受験生が記載します。他のリスクを検討できないか、サイバー攻撃を記載するならより深く記載できるようにしましょう。

具体的なリスク事例
 ・不良品の発生
 ・工期遅延
 ・労災、公衆災害の発生
 ・大規模自然災害
 ・機械、設備、AI、ICT等の故障、誤作動
 ・海外情勢の不安定によるコスト増
 ・情報漏えい
 ・サイバー攻撃
 ・通信障害
 ・想定外利用
 ・事故

対策

 一般的に、リスクに対する手段として、次の4パターンが考えられます。
  ①リスク低減:リスクを受容できるまで被害規模や発生確率を低減させる
  ②リスク回避:低減策が不経済や困難な場合は、リスクを伴う活動自体を中止する
  ③リスク移転:保険等に加入し、リスク発生時には第三者から損失補填を受ける
  ④リスク保有:顕在化しても悪影響は軽微のため、対策は講じない
 技術士試験の答案では、①リスク低減を中心に記載しましょう。リスクは完全にゼロにすることは出来ません。リスクを許容できるまで低減できれば、あとはリスク保有も視野に入れましょう。

 解決策ほど詳しい科学技術は不要ですが、可能な限り科学技術を用いて対策できないか考えましょう。

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