技術士キーワード

(技術士キーワード)送電系統の接地方式

2022年12月20日

技術士キーワード(電気電子部門)一覧はこちら

概要

 電路は大地から絶縁するのが原則ですが、異常時の対地電位上昇、高電圧の侵入などによる感電、火災その他人体への危害や設備損傷の軽減を目的に、必要な箇所には接地が講じられます。

 送電系統の接地方式として、このキーワード解説では中性点接地方式の種類などを解説します。

 中性点接地方式は、送電系統設計の基本方針や目的に応じて、次の事項を考慮して選定します。

 ①地絡過渡電圧・電流の抑制

 ②地絡事故時の健全相、中性点の対地電位上昇抑制による電線路・機器の絶縁低減

 ③地絡事故時の保護リレーの動作性能の確保

 ④地絡事故電流の抑制による電磁誘導障害の軽減

各種方式と特徴

直接接地方式

 中性点を直接大地に接続する方法。

 日本では187kV以上の超高圧送電系統に適用される。

メリット

 ①1線地絡時の健全相の電位上昇が小さいため、機器の絶縁レベルの低減が可能

 ②機器の絶縁レベルを低減できるので、定格電圧の低い避雷器の採用が可能

 ③1線地絡時の地絡電流が大きいので、故障検出が容易で、高速遮断が可能

デメリット

 ①1線地絡時の電流が大きいので、通信線などへの電磁誘導障害の要因となる

 ②自然消弧しないので、故障点の損傷の恐れがある

 ③地絡時の過渡安定度が他の方式より低下する

抵抗接地方式

 中性点を抵抗器で接地する方法。

 日本では22〜154kV以上の超高圧送電系統に適用される。

 抵抗値は100〜900Ω程度で、1線地絡時の中性点電流が100〜500A程度になるように選定される。

メリット

 ①直接接地方式と比較して、1線地絡時の故障電流が小さいため、通信線などへの電磁誘導障害の影響が低い

 ②1線地絡時の健全相の電位上昇が、非接地方式と比較して小さい

 ③零相回路のフェランチ効果の対策としても有効

デメリット

 ①接地のための抵抗器が必要

 ②直接接地方式と比較して健全相の電位上昇が大きくなるので、機器の絶縁レベルの低減効果が低い

 ③抵抗値が大きくなるほど地絡電流は小さくなるので、高感度の地絡継電器が必要

補償リアクトル接地方式

 中性点接地抵抗器と並列に、地絡電流の進み位相電流分を打ち消す補償リアクトルを設置する方法。

 日本では154kV、77kV、66kV系統のうち、都市部の地中ケーブルに適用される。

メリット

 ①地絡事故時、事故点から離れた地点のフェランチ効果を抑制できる

 ②抵抗設置方式に比べ、異常電圧を防止できる

 ③保護継電器による故障区間の選択を確実にできる

デメリット

 ①抵抗器に加えて、リアクトルを設置する必要がある

 ②地絡事故除去後に対地静電容量と補償リアクトルの並列回路である零相回路が商用周波数近くで共振する

消弧リアクトル接地方式

 1線地絡時の地絡点のアーク電流を自然消弧される目的のリアクトルを通して接地する方式

 日本では66kV系統のうち、雷による地絡事故が多い系統に適用される。

 中性点をその系統の対地静電容量と商用周波数で並列共振させることにより零相インピーダンスを無限大にして、1線地絡時に地絡故障電流を流さないようにする。

メリット

 ①地絡事故は一時的なものが多いため、自然消弧させれば絶縁回復できる

 ②地絡事故時に、通信線などへの電磁誘導障害の影響が低い

デメリット

 ①地絡保護継電器の動作は、他の接地方式の中で最も悪い

 ②線路停止など系統条件の変化に応じて消弧リアクトルのタップを切り替える必要がある

非接地方式

 中性点を非接地、あるいは、一次側からみて零相インピーダンスの非常に大きい計器用変圧器を通して接地する方式

 日本では30kV以下の系統に適用される。

メリット

 ①抵抗器やリアクトルの設置が不要

 ②地絡事故時の地絡電流が小さい

 ③Δ結線にも適用できるので、故障修理時などのときにV結線として運転できる

デメリット

 ①地絡抵抗が大きい場合の事故検出感度の低下

 ②間欠地絡時により地絡保護リレーの事故検出能力が低下

 ③事故除去時間が長くなる

 ④健全相の電位上昇が大きくなる




-技術士キーワード